契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い
瑕疵担保責任は契約不適合責任に民法改正されました。
契約不適合責任とは瑕疵担保責任となにが違うのか、民法改正でどのような影響があるのか、不動産を売却するオーナーにとって知っておきたい情報です。
契約不適合責任と瑕疵担保責任の違いを解説します。
1. 瑕疵担保責任の廃止と契約不適合責任
旧民法の「瑕疵担保責任」とは?
瑕疵担保責任とは、売却する不動産に見えない欠陥があったときにオーナーが負う責任のことです。
旧民法では、売買において引き渡された土地・建物に隠れた瑕疵(欠陥)があったときには、売主は瑕疵担保責任を負うものとされています。
①原則として損害賠償
②例外的に契約の目的を達しない場合に限り契約の解除が認められる
瑕疵担保責任に基づく損害賠償と契約の解除は、売主が無過失の場合であっても発生するものとされていました。
瑕疵担保責任が定められた理由は、土地・建物(マンション・戸建)の売買契約のように、契約の目的物がいわゆる「特定物」だからです。売主の債務は特定物である土地と建物を引き渡すことであるため、例えば、土壌汚染のある土地や雨漏りする建物を買主に引き渡したとしても、売主は自己の債務を履行しているため、売主に債務不履行はないと考えられてきました。
売主は瑕疵のある土地・建物を引き渡したとしても、売主としての債務は履行したことになり、債務不履行責任を負わないことになりますが、瑕疵のある不動産を引き渡す売主と、瑕疵の存在を知らずに売買代金を支払う買主との間に経済的な不公平が発生します。そのため、法が特別に定めた責任(法定責任)として設けられたのが瑕疵担保責任です。
瑕疵担保責任は、売買当事者の不公平を是正するために法が特別に定めた責任ですから、売主の責めに帰すことのできる事由は必要ありません。瑕疵担保責任に基づく損害賠償や契約解除は、売主が無過失であっても発生することになり、契約の解除は契約の目的が達成できない場合に限り認められています。また、瑕疵が「隠れた」ものでない場合は、あえて法定責任を認める必要もないと考えられます。ただし、損害賠償の範囲は、買主が瑕疵がないものと信頼したことより被った損害、いわゆる「信頼利益」の範囲に限られることになります。
改正民法の「契約不適合」とは?
契約不適合とは、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことをいいます。
新民法(2020年4月1日施行)は、引き渡された土地・建物に欠陥があり、契約の内容に適合しないものであるときには、売主は契約不適合責任を負うとしました。契約不適合責任では、買主の善意無過失要件(隠れた瑕疵であること)はなくなりましたので、買主が注意すれば気付いた欠陥であっても、売主は不適合責任を負うことになります。
旧法570条は「瑕疵」という用語を用いているが、判例は、その実質的な意味を「契約の内容に適合しないこと」であると解釈していた。そのため、目的物に多少のキズなどがあっても契約の内容に適合する限り「瑕疵」ではないと扱われるが、「瑕疵」という用語を用いると、目的物に客観的にキズがあれば契約の内容と適合するかどうかにかかわらず売主が担保責任を負うとの誤解を招く恐れがある。そこで、新法では、「契約の内容に適合しない」との用語を用いて、端的に「瑕疵」の具体的な意味を表すこととしている。
参照:一問一答・民法(債権関係)改正(筒井健夫、村松秀樹著)275頁
引渡した土地・建物の欠陥・不具合に対し、売主が契約責任を負うか否かは、欠陥などの存在が契約の内容に適合しているか否かで判断するため、買主が契約の目的物である土地・建物をどのように捉えていたかが重要になります。
不動産を売却するときには、売主が負う担保責任の内容を契約書面に特約で明確に定めて、買主に対しこれまで以上に売却物件の状況、その他の情報を提供しておくことが大切です。
2. 契約不適合責任における買主の請求権
契約不適合責任の内容
瑕疵担保責任は、売主に対して完全な履行を請求することや代金減額請求は認めていません(数量指示売買を除く)が、契約不適合責任では、買主から売主に対して、目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しによる履行の追完請求を認める内容になっています。不動産の売買では修補請求がこれに当たり、売主に帰責事由がない場合でも買主は請求できるのです。代金減額請求は、催告期間内に履行がない場合にすることができます。履行の追完が不能等の場合は催告なしに直ちに請求できます。また、売主の債務不履行による損害賠償請求、契約解除権の行使を選択することもできます。
追完請求 ①修補請求 ②代替物の引渡し ③不足分の引渡し | 562条 | 売主の帰責事由不要 |
代金減額請求 | 563条 | 売主の帰責事由不要 |
損害賠償請求 | 415条 | 売主に帰責事由がない場合は請求不可 |
契約解除請求 | 541条 542条 | 売主の帰責事由不要 |
契約不適合責任の存続期間
旧民法における瑕疵担保責任は、債務不履行責任ではなく、物件に瑕疵が存在することに伴い法律が認めた特別の責任(法定責任)であると考えられており、買主が事実を知ったときから1年以内に損害賠償請求や契約の解除をしなければならないとされていました。
新民法では、契約不適合責任の存続期間は、買主が「種類又は品質に関して」契約不適合を知った時から1年以内に契約不適合の事実を売主に通知すれば権利が保全されるという点が瑕疵担保責任とは違います。
3. 契約不適合責任の免責特約
契約不適合責任を負わない特約
契約不適合責任は必ずしも絶対的なものではなく、当事者がこれを免責する特約も有効にすることができます。
ただし、契約不適合責任を免責する特約が無効になる場合の規定があるため、常に免責特約が有効であるとは限りません。
契約自由の原則により、当事者が契約不適合責任を免除することを合意した場合にそれを尊重すべきことは当然ですが、売主が契約不適合を知っていながらこれを告げずに売買契約を締結した場合のように、それが信義に反する場合には無効となります。
売主が契約不適合責任を負わないとする免責特約がなされることは少なくありませんが、無効事由に該当していないかを見落としがないようにチェックしましょう。
4. 売主が宅建業者の場合の特約の制限
買主に不利な特約は無効
新民法においても、売主が宅建業者である場合および売主が事業者で買主が消費者である消費者契約の場合には、売主は担保責任を負わないとする特約は制限され、品質に関する契約不適合責任を負わないとする免責特約は無効です。
- 宅地建物取引業法の規定
売買契約において、宅地建物取引業者が自ら売主となる場合には、当該宅地建物取引業者は、担保責任の期間を2年以上とする場合を除き、売主の担保責任の規定を民法の規定よりも買主に不利な特約とすることは無効と定められています。
- 消費者契約法の規定
事業者(法人・その他の団体・事業のために契約する個人を含む)と消費者(個人であって非事業のために契約する者)との間の契約(消費者契約)の場合に、事業者の担保責任を免除する特約は無効と定められています。
売主が宅建業者の場合、瑕疵担保責任の特約は「売主は引渡しの日から2年間に限り瑕疵担保責任を負う」とするのが通常でした。しかし、新民法では、買主は不適合を知った時から1年以内にその旨を「通知」しておけばよく、請求権の行使までは必要ないとしました(民法566条)。これにより、売主が宅建業者の場合、特約で、売主の契約不適合責任を負う期間を2年間とすることはできなくなりました。
ただし、契約不適合の通知期間を引渡しの日から2年とすることは可能です(宅建業法40条)。
5. 契約不適合責任を回避する調査と買取
売却のトラブルを避ける調査・買取
契約不適合責任は「わかりやすい民法にすること」と「国際的なルールと整合性を合わせること」を目的に創設された新たな制度です。
不動産を売却するときには、不動産会社の物件調査や、買主への告知ができていないことが多く、契約後にトラブルを引き起こすケースが後を絶たないため、買主が「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」「損害賠償請求」を契約不適合責任により請求ができるようになったという背景が契約不適合責任が生まれた原因でもあります。契約不適合責任により売主の責任は一段と重くなり、不動産を売却するうえで不利になったといえます。
契約不適合責任の趣旨を不動産会社が十分に理解し、契約書に目的物の調査内容をしっかりと書き込むことが重要であるため、不動産の売却は調査に長けた不動産会社へ依頼することが基本です。また、契約不適合責任は任意規定であるため免責条項は有効です。免責特約を入れるメリット・デメリットは売却する物件によって違いがあるため、契約不適合責任に詳しい不動産会社の担当者に意見を求めると良いでしょう。
建物が古い場合や、詳しくない空家を相続した場合、要らぬトラブルを避けたい場合などには、不動産会社へ売る買取という売却方法であれば、契約不適合責任は免責となりますので検討してみるのも良いでしょう。
ここまで「契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い|民法改正の影響」について解説しました。
瑕疵担保責任が契約不適合責任の違いは、不動産を売却するオーナーの負担が増えたことです。不動産の売却には契約不適合責任だけではなく、さまざまなトラブルが起こる可能性があるため事前の調査が重要です。不動産の売却で本当に重要なのはリスクを回避してトラブルなく売却することです。不動産の売却を成功させるなら、調査に基づく根拠がある査定をする不動産会社への依頼をオススメします。
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